「相手の配偶者は不倫相手(配偶者)への慰謝料を免除しました。それにもかかわらず私だけに高額な慰謝料の支払いを求めています。私は高額な支払いに応じなければならないのでしょうか?慰謝料は減額してもらえないのでしょうか?」

といったご相談を受けるケースがよくあります。

 

不倫された配偶者は、不倫した配偶者と不倫相手の両方へ慰謝料請求ができます。このうち配偶者への慰謝料を免除したら、不倫相手への慰謝料も法的に減額される可能性があります。相手の請求額をそのまま払うべきではありません。

 

今回は配偶者への慰謝料が免除された場合の不倫相手への慰謝料に対する影響を解説します。

 

配偶者に対する慰謝料が免除されたにもかかわらず自分だけに高額な慰謝料を請求されて納得できない方はぜひ参考にしてみてください。

 

1.配偶者と不倫相手の関係は不真正連帯債務

不倫が行われたら、配偶者と不倫相手の両方が慰謝料を払わねばなりません。

配偶者と不倫相手は「不真正連帯債務」を負うからです。

不真正連帯債務とは、一種の連帯債務です。連帯債務の場合、各債務者がそれぞれ全額の支払いをしなければなりません。

よって不倫相手も配偶者も慰謝料を請求されたら全額の支払いをしなければならず「自分の負担部分しか支払わない」などとは抗弁できません。

 

2.交際相手の慰謝料が免除された場合

では請求者(不倫された人)が自分の配偶者に対する慰謝料のみを免除し、不倫相手にのみ慰謝料を請求する場合、不倫相手の慰謝料にはどういった影響が及ぶのでしょうか?

特に不倫が行われても夫婦関係が継続される場合には、配偶者には慰謝料を請求せず不倫相手にのみ請求する事例がよくあります。

 

配偶者の慰謝料だけ免除した場合のデメリットについてはこちら

 

3.民法の規定(法改正による規定の削除、変更)

連帯債務者の1人に対して債務が免除された場合の法的効果については、旧民法437条に定めがありました。

「連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生じる」

 

つまり「連帯債務者の1人に対する債務が免除された場合、他の連帯債務者の関係でも免除の効果が発生する」と規定されていたのです。

 

連帯債務者にもそれぞれの負担部分があります。1人の連帯債務者に対する債務が免除されると、免除された人の負担部分については消滅するので、その限度で他の連帯債務者にも請求できなくなっていました。

 

3-1.連帯債務者への免除の具体例

たとえばAとBが300万円の連帯債務を負っており、Aの負担部分が100万円、Bの負担部分が200万円としましょう。

この場合に債権者がAの債務を免除します。すると、Aの負担部分である100万円が消滅します。よってBは自分の負担部分である200万円のみ支払えば良い状態になります。

 

これが旧民法437条による効果です。

 

3-2.旧民法は削除

ところが民法改正により、旧437条は削除されました。連帯債務者の1人へ免除されたからといって他の連帯債務者への権利が減縮するのは不相当と考えられるからです。

現在の民法では、「連帯債務者の1人に債務免除すると他の連帯債務者にも請求できなくなる」という規定はありません。

 

具体例

もともと300万円の債務があって1人の連帯債務者に債務免除しても、もう1人の連帯債務者には300万円全額の債務を請求できるのが現在の規定です。

 

4.最高裁判所の判断

不倫慰謝料の場合においても、最高裁判所は結論的に「連帯債務者の1人への免除は他の連帯債務者に影響を及ぼさない」との判断をしています。

 

理由は以下の通りです。

  • 民法719条所定の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではない
  • 民法719条の損害賠償債務については旧437条の規定は適用されない
  • 原告は配偶者の債務のみを免除したに過ぎず、不倫相手に対する関係では、後日その全額の賠償を請求する意思であったものというべき
  • 債務免除は、被告に対してその債務を免除する意思を含むものではなく、被告に対する関係では何らの効力を有しない

 

つまり不倫の場合には「不真正連帯債務」であって「連帯債務」そのものではないので旧民法437条の適用がなく、配偶者の慰謝料を免除しても不倫相手に対する慰謝料には影響しない、と判断したのです。

 

5.慰謝料の金額算定で評価される可能性が高い

では請求者が配偶者の慰謝料を免除しても、不倫相手への請求には何の影響もなく全額の慰謝料請求が認められるのでしょうか?

 

実は配偶者への慰謝料が免除された場合、不倫相手へ請求できる慰謝料も減額される可能性が高くなります。

理由は以下のとおりです。

 

5-1.夫婦が離婚しない場合慰謝料の相場が低くなる

不倫が発覚しても夫婦が離婚しない場合には、離婚する場合よりも慰謝料が低額になります。

具体的には以下の通りです。

  • 離婚する場合…慰謝料の相場は100~300万円程度
  • 離婚しない場合…慰謝料の相場は100万円以下

 

不倫が発覚しても配偶者への慰謝料を免除する場合、通常相手方夫婦は関係を継続すると考えられるでしょう。そうなるとそもそもの慰謝料の額が100万円以下などの低額な水準になります。

 

 

 

5-2.配偶者を許した場合、精神的苦痛が小さいと考えられる

不倫慰謝料の金額は、被害者の受けた精神的苦痛の度合いによって決まります。

一般的に被害者が配偶者への慰謝料を免除した場合、被害者の受けた精神的苦痛は相当和らいでいるものと考えられます。よってこの意味でも慰謝料の減額事情となり、請求できる慰謝料額は低額になる可能性が高まります。

 

以上のように、配偶者に対する慰謝料が免除されると、そもそもの慰謝料の額が低くなるので不倫相手に請求できる慰謝料の額も低額になるのです。

 

配偶者に対する慰謝料が免除されたにもかかわらず高額な慰謝料を請求されたら、相手の言い値を払うべきではありません。

 

6.免除されたのに高額な慰謝料が請求された場合の対処方法

もしも配偶者への慰謝料が免除されたにもかかわらず高額な慰謝料を請求されたら、どのように対応すれば良いのでしょうか?

 

6-1.事情を確かめる

まずは本当に配偶者への慰謝料が免除されたのか、相手夫婦が離婚せずに関係を継続するのかなど、事情を確認しましょう。状況によって支払うべき慰謝料の額が変わってきます。

6-2.相当な慰謝料額を算定する

次に状況に応じた相当な慰謝料額を算定しましょう。

相手夫婦が離婚しない場合の慰謝料額の相場は100万円を切ります。相手が配偶者を許しているなら慰謝料をさらに減額してもらえる可能性もあります。

払いすぎにならないように妥当な慰謝料額を算定することが重要です。

6-3.弁護士に相談する

相手が配偶者に対する慰謝料を免除しても不倫相手にのみ慰謝料請求する場合、不倫相手には厳しい感情を抱いているケースが多数です。

不倫相手が減額交渉をしても聞く耳持たない可能性があります。

そういった状況になったら、弁護士に相談しましょう。弁護士であれば法的に適正な慰謝料額を算定できます。

弁護士に交渉を任せれば自分で対応しなくてよくなるのでお互いが冷静に話し合いを進められますし、ストレスもかかりません。

 

結果的に慰謝料額を抑えて有利な条件で示談しやすくなるでしょう。

 

弁護士に依頼した場合のメリット・デメリットはこちら

 

群馬の山本総合法律事務所では不倫慰謝料を請求された方へのサポートに力を入れて取り組んでいます。お困りの際にはお気軽にご相談ください。