配偶者が不倫をしたときには、法律上、配偶者本人と不倫相手の両方へ慰謝料請求ができます。

もっとも、配偶者との関係を継続する場合には、配偶者への慰謝料を免除しようと考える方も少なくありません。

 

実は、不倫のケースで配偶者に対する慰謝料請求のみを免除すると、不倫相手に対する慰謝料請求にも影響を及ぼしてしまう可能性があります。

 

不倫相手への慰謝料が減額されないため、正しい対処方法を知っておきましょう。

 

今回は配偶者へ慰謝料を免除したときのデメリットについて弁護士が解説します。

不倫されても配偶者と別れたくない方、関係の修復を目指している方はぜひ参考にしてみてください。

 

1.配偶者の慰謝料のみ免除した場合の影響

不倫をされると、配偶者と不倫相手の両方に共同不法行為責任が成立します。

したがって、不倫された被害者は、配偶者と不倫相手の両方に対して慰謝料を請求できます。

この場合の配偶者と不倫相手の責任は、法律上「不真正連帯債務」と呼ばれており、連帯債務の一種です。

 

なお、連帯債務とは、債務者がそれぞれ債務全体について支払わなければならない債務のことをいいます。

不倫相手にのみ請求する場合のメリットや注意点についてはこちら

 

不倫慰謝料の不真正連帯債務

不倫 慰謝料

不倫の慰謝料の場合、被害者は配偶者にも不倫相手にも全額の請求ができます。不倫相手からの「責任が半分なので半額しか払わない」などという主張は認められません。

ただし、不倫相手が慰謝料の全額支払った場合に、配偶者に対してその負担割合分の求償をすることはできます。

 

こういった状況において、もし配偶者に対する慰謝料請求のみを免除した場合、何が起こるのでしょうか?

 

この点については、最高裁判所の判例も出ているので、これらを参照しながら確認しましょう。

 

3.最高裁判所は免除の影響を認めなかった(最高裁平成6年11月24日)

裁判所 慰謝料

最高裁判所は、「配偶者に対して債務を免除したとしても、不倫相手に対する請求権には影響しない」という結論を下しました。

主な理由は、「民法719条の共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、連帯債務の免除に関する規定(民法437条)は適用されない」というものです。つまり、不倫の慰謝料の支払義務は連帯債務の一種ではありますが、連帯債務そのものではありません。よって、これと同様に理解する必要がないということです。

また、被害者としては配偶者の債務を免除しただけであり、不倫相手の債務を免除する意思はなかったことが明らかでした。このことからも、免除を認めるべきではない、という判断がされました。

 

このような最高裁判所の立場からすれば、基本的には「配偶者への慰謝料請求を免除しても不倫相手には全額を請求できる」と考えて良いでしょう。

 

4.配偶者へ免除すると慰謝料が減額される可能性も

お金 減額

最高裁判所は、「配偶者に対する慰謝料請求のみを免除しても、その負担部分について不倫相手の慰謝料が減縮されることはない」と判断しています。

 

もっとも、その後の下級審では、慰謝料の金額を算定する際に「配偶者への慰謝料を免除した」事情を評価して、慰謝料全体の金額を下げる傾向があります。

 

つまり、「配偶者を許したということは不貞行為を許したということなので、慰謝料も少なくするべき」という考え方です。

 

配偶者に対する慰謝料請求を免除することが直接不倫相手の慰謝料の減額につながるわけではありませんが、慰謝料の金額を決める一つの事情として評価されてしまいます。

この考え方であれば、配偶者に対する慰謝料請求の免除の効力が直接不倫相手に及んだわけではないので、上記の最高裁の考え方に反しません。

 

 

配偶者への慰謝料免除はリスクが高い

以上のように、配偶者への慰謝料を免除すると、結果的には不倫相手に請求できる慰謝料額が低くなってしまうおそれが高いといえます。

したがって、安易に免除してしまうのは危険といえるでしょう。

 

5.配偶者から慰謝料の免除を求められたときの対処方法

減額申請された時の対処法

配偶者から慰謝料の免除を求められても、基本的には応じるべきではありません。

そこで、配偶者には請求をせず、まずは不倫相手へ慰謝料を請求しましょう。そうすれば、配偶者への慰謝料免除を理由に減額されることはありません。

また、配偶者の慰謝料を免除しても不倫相手からの求償権は失われないので、免除しないまま不倫相手への慰謝料請求を進めても、特に配偶者の不利益が大きくなるわけではありません。つまり、配偶者への慰謝料を免除してもしなくても、いずれにせよ不倫相手からの求償されてしまうリスクは発生します(民法445条)。

 

よって、まずは不倫相手から慰謝料を回収し、その後に配偶者への免除を検討するのが得策といえるでしょう。配偶者に対しては、正式に免除をせず「事実上支払いを請求しない」ようにするだけでも十分に対応ができます。

 

配偶者への慰謝料請求が免除された場合の影響についてはこちら

不倫相手からの求償を防ぐ

配偶者との関係を継続する場合、免除よりむしろ不倫相手からの求償を防ぐほうが重要です。

求償とは、連帯債務者の1人が支払いをしたときに、負担部分を超えて支払った分を他の連帯債務者へ請求することです。不倫相手が全額の慰謝料を払うと、配偶者へ求償してくる可能性があります。上記のとおり、配偶者の債務を免除しても不倫相手の求償権はなくなりません。

 

求償を防ぐためには、不倫相手と示談をするときに「求償権を放棄」させる必要があります。

相手と示談交渉をする際、忘れずに求償権の放棄についての条項を入れましょう。

 

まとめ

不倫慰謝料を請求するときには、債務免除や求償をはじめとして押さえておかねばならない法的な事項がいくつもあります。お悩みの際にはお早めに弁護士までご相談ください。