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不倫慰謝料を請求されたとき、相手と話し合っても解決できなければ民事裁判(訴訟)を起こされる可能性があります。民事裁判になると対応しなければならず大きな負担が生じてしまうのがデメリットです。反面、裁判ならではのメリットもいくつか存在します。
相手から訴訟を起こされたときに備えて、裁判の流れも把握しておきましょう。
今回は民事裁判で解決するメリットやデメリット、流れについて弁護士が解説します。不倫慰謝料を請求されてお困りの方はぜひ参考にしてみてください。
1.民事裁判とは
民事裁判とは、原告が裁判所へ被告に対する訴えを提起して、何らかの判断を求める手続きです。訴えた人を「原告」、訴えられた人を「被告」といいます。
不倫慰謝料請求の民事裁判の場合、配偶者に不倫された人(慰謝料の請求者)が原告となり、不倫した人(慰謝料を請求される人)が被告となります。
不倫慰謝料請求の民事裁判が起こると、裁判所が「慰謝料の支払義務の有無」や「慰謝料の金額」を決定します。
慰謝料の支払義務がある場合には、裁判所が慰謝料の金額を決めて被告へ支払い命令の判決を下します。判決の場合、慰謝料については一括払いの命令が出ます。
被告に慰謝料の支払義務がない場合、原告の請求を棄却します。棄却された場合、被告は慰謝料を払う必要はありません。
民事裁判には1審から3審まであり、1審(地方裁判所または簡易裁判所)の判断に不服があれば当事者は控訴できます。
控訴があると判決は確定せず、高等裁判所などの上級審であらためて審理が行われます。
なお民事裁判は「民事訴訟」や「訴訟」などともよばれますが、これらはすべて同じ意味なのでおぼえておきましょう。
2.民事裁判のメリット
民事裁判には以下のようなメリットがあります。
2-1.相手が強硬な場合でも裁判所が間に入ってくれて解決しやすい
不倫慰謝料の問題を相手と直接話し合っても相手の主張が強硬で、和解できないケースが少なくありません。相手が相場以上の慰謝料を請求して譲らないので合意できないケースもあるでしょう。お互いに感情的になって話合いを進められない場合もよくあります。
民事裁判であれば、裁判所が間に入ってくれるので解決しやすくなります。
裁判になると多くのケースでお互いが弁護士に依頼しますが、その場合、相手と顔を合わせる必要もありません。
相手が強硬な場合でも裁判所が間に入ってくれて解決しやすくなることが、1つ目のメリットといえるでしょう。
2-2.適正な金額での解決が期待できる
示談では自分たちで慰謝料の金額を決めなければなりませんが、民事訴訟になると裁判所が慰謝料の金額を判断します。裁判所は常に「法的な相場」に従って慰謝料額を決定するので、法律的に適正な金額になります。
自分たちで慰謝料を決めると相手に押されて相場より高額になってしまう可能性がありますが、訴訟で判決になった場合にはそういったリスクも発生しません。
慰謝料が適正な金額となることも民事訴訟のメリットといえるでしょう。
2-3.裁判所から和解案を提示してもらえる
不倫慰謝料問題について自分たちで話し合っても、なかなか和解できないものです。
お互いが感情的になって話を進められないケースも多いですし、金額について合意できない場合も多いでしょう。
民事裁判になると裁判所が和解案を提示してくれるケースがよくあります。
裁判所からの提案であればお互い受け入れやすいものですし、双方が和解を受け入れれば早期に不倫トラブルを解決できます。
裁判所から和解案を提示してもらえて当事者間の調整を行ってくれることも民事訴訟のメリットといえるでしょう。
2-4.相手方の保有する証拠資料を確認できる
不倫慰謝料を請求されたとき、相手が必ずしも万全な証拠を持っているとは限りません。
ときには憶測で請求している場合もあります。
ただ示談交渉の段階では証拠を開示する必要がないので、相手が証拠を持っているのかどうか、こちらには確認できません。実際には証拠がないのに相手から高額な慰謝料を請求されて払ってしまうリスクもあります。
訴訟になると、相手は証拠によって「不貞」を立証しなければなりません。不貞とは、配偶者のある人が配偶者以外の人と肉体関係を持つことです。
訴訟になったら相手は証拠を全部示して不貞を証明しなければならないので、相手の手持ち証拠が開示されます。そうすればこちらも戦略を練れますし、慰謝料を払いすぎてしまうこともありません。
相手の保有する証拠資料を確認できることも、示談とは異なる訴訟のメリットです。
2-5.相手の請求が棄却される可能性がある
相手が不倫慰謝料請求の民事裁判を起こしても、必ず認められるわけではありません。
慰謝料請求が認められるには、不貞を証明しなければならないからです。そのためには「肉体関係を示す証拠」が必要となります。しかし現実に肉体関係の証拠を入手するのは簡単ではありません。証拠がなければ相手の請求は認められず棄却されます。
また不貞慰謝料に時効が成立している場合もありますし、不倫が始まる前から夫婦関係が破綻していた場合にも慰謝料は発生しません。これらの場合にも相手の請求は棄却されます。
相手による慰謝料請求が棄却されたら、被告は慰謝料を払う必要がありません。
示談なら相手が慰謝料を完全にあきらめる可能性は低いですが、訴訟であれば相手の請求に理由がなければ完全に棄却されます。
相手の請求が棄却されて慰謝料を払わなくて良くなる可能性があることは、民事裁判のメリットといえるでしょう。
2-6.相手の違法行為を牽制できる
不倫慰謝料を請求するとき、ついつい違法行為をしてしまう人がいます。
たとえば以下のような場合です。
- 不倫相手に暴力を振るう
- 不倫相手の職場に乗り込んできて不倫の事実を触れ回る、不倫相手を罵倒する
- ネットに不倫の事実を書き立てる
- 不倫相手を脅迫する
- 示談書や自認書にサインするまで帰さない、などと言って不倫相手を監禁する
当事者のみで話し合っていると、どうしても上記のような違法行為が行われやすくなるものです。
一方民事裁判になると、裁判所が間に入るので相手は違法行為をしにくくなります。万一問題行動があったら裁判官からも注意してもらえるでしょう。
相手による違法行為を牽制しやすいことも、民事裁判のメリットのひとつといえます。
2-7.弁護士に任せるとほとんど何もしなくて良い
民事裁判には労力がかかるイメージがありますが、それは自分で対応する場合です。
弁護士に任せてしまえば、ご本人がしなければならない作業は多くはありません。
書面の作成や証拠の取りまとめ、提出や裁判所とのやり取りなどはすべて弁護士に任せられます。尋問以外の期日には弁護士のみが出廷すれば良いので、当事者は裁判所へ行く必要すらありません。
弁護士に依頼するとほとんど何もしなくて良くなる点も、民事裁判のメリットといえるでしょう。
3.民事裁判のデメリット
民事裁判にはデメリットもあるので、以下でみていきましょう。
3-1.周囲に知られる可能性がある
民事裁判は公開されます。
たとえば尋問が行われる際には誰でも傍聴できるので、まったく知らない人に見られる可能性もありますし、知っている人がやってくる可能性もあります。
また民事裁判のために弁護士とやり取りしたり自宅で証拠資料を用意したりしていたら、同居の親族に知られてしまいやすくなるでしょう。
示談のようにすんなり解決できず時間が長くかかるので、その分情報が漏れる可能性も高まります。
周囲に知られる可能性が比較的高くなる点は、民事裁判のデメリットといえるでしょう。
ただし民事裁判をされたからといって必ず周囲に知られるわけではありません。実際に民事裁判の傍聴に来る人は少数ですし、知り合いが来るとも限らないからです(偶然的に知り合いが見に来る可能性はほとんどありません)。
慎重に対応すれば同居の親族に裁判を知られないことも可能です。
周囲に知られたくない場合には、弁護士に対応を依頼してすべて任せてしまいましょう。そうすれば自分でほとんど何もしなくて良くなるので、行動を不審に思われて周囲に感づかれる可能性が大きく低下します。
3-2.厳しい判決がでる可能性がある
民事裁判では、裁判所が証拠にもとづいて慰謝料の支払義務の有無や金額について判断します。「被告の行動が悪質」と判断されると、高額な慰謝料の支払い命令が出る可能性もあります。
示談であれば相手の裁量によって慰謝料を相場より大きく減額してもらえる可能性がありますが、裁判の場合にはそうはいきません。
厳しい判決(支払い命令)が出てしまう可能性があることは民事裁判のデメリットといえるでしょう。
3-3.給与や預金を差し押さえられる可能性がある
民事訴訟で判決(支払い命令)が出たら、慰謝料を一括払いしなければなりません。
現実にはどうしても払えない方も多くいらっしゃいます。しかし判決が出たのに無視していると、相手から給料や預金などの財産を差し押さえられてしまう可能性があります。
給料がいったん差し押さえられると、慰謝料を払い終えるまで毎月一定額が天引きされ続けます。
示談であれば、公正証書さえ作成しなければ滞納しても差し押さえられる心配はありません。
支払いをしないときに給料や預金などを差し押さえられる可能性があることは、民事訴訟のデメリットといえるでしょう。
3-4.解決まで時間がかかるケースが多い
民事訴訟は非常に複雑で重厚な手続きです。
何度も期日を開いて証拠や争点を整理し、最終的に尋問を行って結審し、ようやく判決が下されます。示談のように「当事者同士で話し合って解決」というわけにはいきません。
示談が1~2か月で解決できるケースが多いのに対し、不倫慰謝料の民事裁判は半年以上かかるのが通常です。
解決まで時間がかかってしまうのも民事裁判のデメリットといえるでしょう。
3-5.労力がかかる
民事裁判に対応しようとすると、大変な労力がかかります。
相手の訴状に対する答弁書を作成しなければなりませんし、自分の主張を裏付ける証拠も用意しなければなりません。
期日のたびに裁判所へ出頭して訴訟活動を適切に進める必要もあります。
示談と比べて労力が大きくかかる点もデメリットといえるでしょう。
ただ弁護士に依頼すると自分ではほとんど対応しなくて良くなるので、大幅に労力を削減できます。なるべく手間をかけずに訴訟トラブルを解決したい方は、弁護士に代理を依頼しましょう。
3-6.費用がかかる
民事訴訟には費用がかかるケースもよくあります。
まず、慰謝料の支払い命令が出たときには相手が当初に支払った印紙代の一部を負担しなければならないのが一般的です。たとえば「訴訟費用を5分5分にしてそれぞれを原告と被告に負担させる」とする判決が出ると、被告は原告の支払った印紙代を半額分負担しなければなりません。期日のたびに裁判所へ行かねばならないので交通費もかかるでしょう。仕事を休めば休業による損失も発生します。
また民事裁判に対応するには弁護士によるサポートが必要です。弁護士がいないと極端に不利になってしまうケースが多く、労力も大きくかかってしまうからです。
ただ弁護士に依頼すると弁護士費用もかかるので、金銭的な負担が大きくなってしまいます。
自分で対応するにせよ弁護士に依頼するにせよ、話し合いで解決するよりは金銭的な負担が大きくなるのは民事裁判のデメリットといえます。
3-7.遅延損害金が加算される
民事裁判で慰謝料の支払い命令が出るときには、遅延損害金が加算されます。
遅延損害金とは、慰謝料の支払いが遅れたことによる損害金です。
基本的に不法行為時から発生しますが、相手の請求内容によっては訴状送達の日から計算される場合もあります。
遅延損害金の金額は年率で計算され、2022年時点では年率3%です(法定の利率は3年ごとに見直しがあります)。
単純に慰謝料だけではなく遅延損害金が加算されて支払い額が上がってしまう可能性があることは、民事裁判のデメリットといえるでしょう。
3-8.弁護士費用を加算される可能性がある
民事裁判で慰謝料の支払い命令が出る場合、原告が負担した弁護士費用が一部加算される可能性があります。原告は、慰謝料だけではなく支払った弁護士費用の一部も合わせて請求できるからです。
不倫の慰謝料トラブルで認められる弁護士費用は「認容された金額の1割」です。
たとえば200万円の慰謝料支払い命令が出る場合には20万円の弁護士費用が加算されます。
示談であれば相手の支払った弁護士費用を払う必要はありません。
弁護士費用が足される可能性があることは民事裁判ならではのデメリットです。
3-9.一括払いになる
民事裁判で支払い命令の判決が出る場合、慰謝料の支払い方法は一括払いになります。
示談であれば分割払いも可能ですが、判決では分割払いを認めてもらえません。
お金がなくて一括で払えない場合、給料を差し押さえられて取り立てを受ける可能性模あります。
必ず一括払いとなってしまうことは、民事裁判のデメリットいえるでしょう。
ただし訴訟上の和解になった場合には示談のケースと同様、分割払いの約束も可能です。
3-10.お金がなくても考慮してもらえない
示談交渉であれば、不倫相手にお金がない場合に考慮してもらえて慰謝料を相場より減額してもらえるケースが少なくありません。たとえば慰謝料の相場が200万円の場合でも50万円程度にしてもらえる場合などがあります。
しかし判決では不倫相手にお金があるかどうかは問題にされません。被告にお金がなくてもそういった事情は無視されて相場に従った慰謝料の支払い命令が出ます。
お金がなくても考慮してもらえないことは民事裁判のデメリットといえるでしょう。
4.民事裁判の流れ
民事裁判は以下のような流れで進みます。
STEP1 相手が訴訟を提起する
まずは相手が訴状や証拠を提出して慰謝料請求の訴訟を提起します。
STEP2 答弁書催告状と呼出状が届く
訴状が受けつけられると、第1回期日の予定日が決まり、裁判所から被告宛に答弁書催告状と第1回口頭弁論の呼出状が送られてきます。
つまり裁判所から「反論書面を用意して提出するように」促されるのと、「第1回期日が開かれるので出頭するように」と呼び出されるのです。
STEP3 答弁書を提出する
裁判所から書類が届いたら、第1回期日までに答弁書を提出しましょう。答弁書も提出せず第1回期日にも出頭しない場合、相手の言い分をすべて認めたことになってしまいます。
すると相手の言い分にもとづいた高額な慰謝料の支払い命令が出てしまう可能性が高くなります。
自分で対応するのが困難な場合、早めに弁護士へ対応を任せましょう。
STEP4 第1回期日
予定された日時に裁判所の法廷で第1回期日が開かれます。出頭した当事者と裁判官が提出された書面を確認して次回以降の期日の予定を決めます。
STEP5 争点と証拠の整理
第2回期日以降は、争点や証拠の整理を行っていきます。この間に和解の話し合いが行われるケースもよくあります。
STEP6 尋問
争点と証拠が整理できたら、当事者や証人の尋問を行います。弁護士としっかり打ち合わせをしてから臨みましょう。
STEP7 判決
すべての主張や証拠が出揃ったら結審し、判決が言い渡されます。
まとめ
不倫慰謝料を請求されたら、適切に対応しないとトラブルが拡大してしまい、解決まで長引いてしまうケースが多々あります。特に訴訟を起こされた場合、法的な主張や立証を行わないと高額な支払い命令が出てしまい、そのまま給料の差し押さえを受けてしまう可能性もあります。
不倫慰謝料を請求されたら、不利益を小さくするために早めに弁護士へ相談しましょう。訴訟では弁護士がいないと極端に不利になってしまうリスクが高まります。また弁護士に依頼すると裁判所へ出頭しなくて良い、労力を大幅に削減できてストレスもかかりにくくなるなどのメリットを受けられます。
群馬の山本総合法律事務所では不倫慰謝料された方へのサポートも積極的に行っています。秘密は厳守しますので、慰謝料請求をされたときにはお早めにご相談ください。