「慰謝料請求の裁判はどのように進んでいくのでしょうか?どのくらいの期間がかかりますか?」

といったご質問を受けるケースがよくあります。

 

不倫の慰謝料を請求するとき、交渉で解決できることも多く、全てのケースで裁判(訴訟)をする必要があるわけではありません。

 

一方で「訴訟」の方法を選択せざるを得ないケースも少なからず存在します。たとえば相手が「慰謝料を払わない」と開き直る場合などには、訴訟を起こす必要性が高いでしょう。

 

今回は慰謝料請求訴訟の流れや進め方、解決までにかかる期間について、弁護士が解説します。

不倫相手に対する慰謝料請求をご検討されている方は参考にしてみてください。

1.慰謝料請求訴訟に至るまでの流れ

不倫の慰謝料請求には、大きく分けると、①示談交渉の段階、②訴訟の段階、③慰謝料の取り立て(回収)、の3つの段階があります。

 

ここでは、まず示談交渉の段階の流れについてご説明します。

 

1-1.慰謝料請求の通知を送る

不倫されて慰謝料を払ってもらいたい場合、まずはその意思を相手に伝える必要があります。直接会って慰謝料を請求する意思を伝えるという方法もありますが、直接会うことでトラブルになってしまうことも少なくありませんので、相手に慰謝料請求の通知書を送るのが適切な場合が多いでしょう。

慰謝料請求の通知書を送る場合には「内容証明郵便」を利用したうえで、配達証明というサービスを利用した方が良い場合がほとんどです。配達証明付きの内容証明郵便で通知書を送れば、通知書の内容や通知書が相手に届いたこと、通知書が相手に届いた日を後から証明することが出来ます。

1-2.慰謝料請求の話し合い(交渉)をする

慰謝料請求の通知書が相手に届いたら、相手と話し合い(交渉)を行うことになります。

相手がこちらの請求額をそのまま支払わないケースも多いので、慰謝料の金額について話し合ったり、支払期限について話し合ったりします。

なお、こちらから送った通知書を相手が無視するケースもあります。

こうした場合、電話などの他の連絡手段がないときには、やむを得ず裁判を起こすことになります。

 

1-3.交渉で合意できなかった場合

交渉をしても、必ずしも合意できるとは限りません。

「不倫はしていない」などと言って慰謝料を支払に応じない場合もよくあります。

また、「不倫を認めて慰謝料を支払う」と言いつつ不当に低い金額しか提示してこない相手もいます。

こうした場合には示談交渉で合意することが難しく、こちらとしては裁判を起こすことを検討せざるを得なくなります。

1-4.合意できた場合でも訴訟を起こすべきケースがある

一方で、慰謝料の金額や支払期限などについて相手との合意ができたら、慰謝料支払いについての合意書を作成します。

ただ、相手が必ずしも約束を守るとは限りません。合意書を作成していても、無視されて合意書で決めた支払期限までに支払いを受けられないケースもあります。

こうした場合にも慰謝料請求の裁判を起こすことを検討せざるを得なくなります。

 

なお合意書を公正証書の形で作成していた場合には、公正証書をもとに強制執行できるので、裁判を起こす必要はありません。

 

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2.慰謝料請求訴訟を起こすべき場面とは

示談交渉の段階でご説明したとおり、以下のような状況であれば、慰謝料請求訴訟を起こすことを検討せざるを得ません。

 

  • 慰謝料請求の通知を送ったが相手が無視して払わない
  • 慰謝料請求の通知を送ったが相手が「払わない」「払えない」と開き直っている
  • 慰謝料請求の交渉をしたが、金額などについて合意できず決裂してしまった
  • 慰謝料請求の合意ができたが相手が約束を守らず支払いに応じない

 

上記のような場合、裁判をすることなく交渉により慰謝料を支払わせることは極めて困難です。相手に慰謝料の支払を求めるのであれば、慰謝料請求訴訟を起こすほか手段がない場合とも言えます。

 

3.慰謝料請求訴訟(裁判)の流れ

ここでは、慰謝料請求の訴訟(裁判)の進め方や流れなどについてご説明します。

3-1.弁護士に慰謝料請求を依頼するかどうか検討する

慰謝料請求について示談交渉の段階から弁護士に依頼されている方が多いですが、弁護士に依頼せず相手と示談交渉を行っている方もいらっしゃると思います。

しかし、示談交渉ならばご自身で行うことが出来ても、裁判となると一般の方では対応が困難と思います。

そのため、慰謝料請求の訴訟(裁判)を起こしたいということであれば、まずは弁護士に依頼することを検討した方が良いと思います。

まずは慰謝料請求に力を入れている弁護士に相談し、訴訟手続きの代理を依頼しましょう。示談交渉を弁護士に任せていた場合には、引き続いて訴訟も依頼できます。示談を打ち切って訴訟を起こすべきか、弁護士と相談して決めましょう。

 

3-2.訴状の作成・提出

訴訟を起こす際には「訴状」を作成しなければなりません。訴状とは、相手に対する請求を法的にまとめた書類です。

弁護士に依頼した場合には、弁護士が訴状を作成します。

訴状ができたら裁判所へと提出します。この段階で不倫の証拠を添付することも可能です。

3-3.期日の指定と裁判所への呼び出し  

訴状を提出すると、訴状審査の後、裁判所の担当部署と調整のうえ、第1回期日の日程が決まります。

期日が決まったら、裁判所が被告(訴えられた不倫相手)に第1回期日の呼出状と答弁書催告状(答弁書の提出を促す書類)を送ってきます。

3-4.答弁書の提出

第1回期日前に、被告から答弁書が提出されるケースが多数です。

答弁書には相手による反論が記載されているので、どのような内容となっているかよく読んでおきましょう。なお第1回期日までに答弁書への反論を用意する必要はありません。

 

3-5.第1回期日

第1回期日では、当日までに当事者が提出した訴状や答弁書などの書類を確認します。

その上で今後の進行方法を協議し、第2回目の期日を設定するのが一般的です。

弁護士に依頼している場合、第1回期日を含めて期日にご本人が出頭する必要はありません(後でご説明する当事者尋問の期日などを除きます)。

 

3-6.2回目以降の期日

2回目以降の期日は、争点についてお互いの主張や証拠を交互に出し合っていく形になるのが通常です。

例えば、1回目の期日までに提出された被告の答弁書に詳細な反論が記載されていた場合には、2回目の期日までに原告側が被告の反論に対する再反論の書面(準備書面)や原告側の主張を裏付ける証拠などを提出します。そうすると、今度は被告側が3回目の期日までに原告の再反論に対する再々反論の書面や被告側の主張を裏付ける証拠などを提出するという形で、原告と被告が争点についてのお互いの主張や証拠を交互に出し合っていきます。

なお、さきほどもご説明したとおり、弁護士に依頼している場合、1回目の期日だけではなく、2回目以降の期日も含めて期日にご本人が出頭する必要はありません(後でご説明する当事者尋問の期日などを除きます)。

また、弁護士に依頼している場合、訴状と同じように準備書面(主張の内容を記載した書面です)の作成も弁護士が行いますし、準備書面や証拠の提出も弁護士が行います。

 

3-7.和解による終結      

裁判の進行中、裁判官はいつでも和解の勧告ができます。

和解とは、当事者同士が話し合って合意し、裁判を終わらせる手続きです。

裁判をする前の示談交渉と異なるのは、裁判官が間に入って調整してくれる点です。

裁判官が和解案を提示するなどして調整してくれることで、自分たちだけで話し合うより合意しやすいのはメリットといえるでしょう。

 

和解は裁判が始まってから終結するまでいつでもできます。話し合っても合意できなければ和解による解決を拒否してもかまいません。ですので、裁判官から和解の勧告があった場合はいったん話し合いのテーブルについてみて、相手の出方をうかがってみるのがよい場合が多いと思います。

 

和解ができれば和解によって裁判が終結します。その後、裁判所から「和解調書」が送られてくるので大切に保管しましょう。和解調書をもとに強制執行を行うことが出来ますので、相手が払わないときには相手の財産を差し押さえることも可能です。

3-8.和解しない場合      

和解しない場合には、判決に向けて訴訟の手続きが進んでいきます。

和解による解決が難しくなった時点で、双方の主張と証拠が出尽くしている場合には、必要に応じて「尋問」が行われます。尋問とは、証人や当事者に質問をする手続きです。

全ての事件について尋問が行われるわけではありませんが、例えば、原告と被告の本人尋問を行うことになった場合、弁護士に依頼していても、本人尋問の期日にはご本人にも裁判所に来ていただく必要があります。

尋問では自分の弁護士や相手の弁護士、裁判官からいろいろな質問をされるので、事前にしっかり用意して臨む必要があります。

3-9.証人尋問・本人尋問

尋問の日には、証人や当事者本人(原告・被告)に対する質問が行われます。

本人尋問の大まかな流れは以下のようになります。

  • まずは自分の弁護士から質問をされる
  • 相手の弁護士から質問をされる
  • 裁判官から質問をされる

 

ぶっつけ本番だと不用意な発言によって不利になってしまうリスクが高まります。事前に弁護士と打ち合わせをして、尋問のリハーサルを行っておきましょう。

不安や懸念事項があれば依頼している弁護士に話して対策方法を検討しておくべきです。

 

3-10.判決の言い渡し

尋問が終わると、最後の話し合いのチャンスとして和解の勧告が行われるケースもあります。いずれにしても和解できなければ結審して判決言渡し日が指定されます。

 

判決言渡し日は、事件によりますが結審した日から1か月半から2か月後になることが多いと思います。判決言渡しの期日には、出頭する必要はありません。待っていれば裁判所から判決書が送られてきます。

弁護士に訴訟を依頼している場合、弁護士が裁判所から判決書を受け取りご本人へ連絡を入れるのが一般的です。

 

3-11.控訴の検討

判決が出ても、判決の内容に納得できないこともあると思います。

そんなときには控訴を検討することになります。

控訴すると、控訴審(一審が地方裁判所の場合、控訴審は高等裁判所)で改めて判断してもらうことが出来ます。

控訴審の裁判官は一審の裁判官とは異なりますので、同じ主張をしても結論が変わる可能性もありますが、一審での主張内容や証拠は控訴審に引き継がれますので、控訴審判決でも一審判決と結論が変わらなかったということも多いです。

 

控訴は「判決を受けとってから2週間以内」にしなければなりません。

そのため、判決書を受け取ったら、早めに依頼している弁護士と控訴するかどうか相談して、控訴するかどうかを決める必要があります。

 

3-12.慰謝料請求訴訟にかかる期間

何が争点になるかによっても違いますので、一概に言うことは出来ませんが、一審判決が出るまでに1年くらいはかかってしまうことが多いのではないかと思います。

もちろん、和解により解決となった場合にはもっと短期間での解決が可能ですし、控訴審に至った場合には結論が出るまでに更に期間が必要になります。

事案によってもかかる期間には差があるので上記はあくまで目安とお考え下さい。

 

慰謝料請求訴訟の流れについてはこちら

 

4.慰謝料請求訴訟後の流れ

慰謝料請求を認める判決が出ても、同時に自動的に支払いが行われるわけではありません。以下では判決が出た後の流れをご説明します。

 

4-1.相手に連絡して支払を受ける

判決が出たら、相手に連絡をして支払いを受けましょう。

「判決が出ているので、それに従った支払いをしてほしい」と伝えれば、すぐに支払を受けることが出来る場合もあります。

ただし相手にお金がない場合など、判決が出ても支払をしてもらえないケースもあります。

 

遅延損害金を加算できる

判決によって相手から支払いを受ける場合には「遅延損害金」を加算できます。

遅延損害金とは、相手が金銭債務を支払期限までに支払わない場合の損害賠償金(支払が遅れたことについて損害賠償金)です。

民法の定める利率は年3%なので(2022年9月現在)、相手が払わない日数分の年3%の割合による遅延損害金が日々加算されていきます。

 

その意味でも相手にプレッシャーがかかるので、判決が出ても支払を行わない相手に連絡する際には「早めに払わないと遅延損害金が増えていきますよ」といった事情も伝えてみるとよいでしょう。

 

4-2.相手が払わない場合には差し押さえ

判決が出ても相手が支払いをしない場合には、相手の財産を差し押さえて、判決で認められた慰謝料を回収することが考えられます。

ただし差し押さえをするためには、債権者側(慰謝料を請求している側)が相手の財産など差し押さえの対象を特定しなければなりません。預金口座であれば金融機関と支店名が必要ですし、給料を差し押さえるなら勤務先の特定が必要です。

 

和解調書でも差し押さえができる

差し押さえを行うことができるのは、判決が出た場合だけではありません。裁判所での和解により解決した場合にも、和解調書をもとに差し押さえを行うことが認められています。

相手と和解したにもかかわらず相手が支払いをしない場合には、和解調書をもとに強制執行の申立を行い、相手の預金や給料等を差し押さえることが可能です。

 

差し押さえの対象となるものの例

  • 預金
  • 株式、投資信託
  • 各種保険の解約返戻金
  • 土地や家などの不動産
  • 貴金属などの動産類
  • 給料やボーナス
  • 退職金

 

上記のようなものは差し押さえの対象です。上記以外にも差し押さえられるものはあるので、個別的には弁護士へ相談しましょう。

 

4-3.慰謝料を回収する

差し押さえの対象となる財産によって、回収の具体的な手続は異なります。

例えば、特定の預金について差し押さえを求める申立を行い、裁判所が申立を認めると、裁判所がその預金を差し押さえる決定を出します。

裁判所による差し押さえの決定が出た後は、差し押さえられた預金のある銀行に連絡を入れ、慰謝料の回収(債権の取り立て)を行うことになります。

 

5.慰謝料請求訴訟は弁護士へ任せましょう

慰謝料請求の訴訟は非常に難しく、一般の方が一人で対応すると不利になってしまう可能性が高いものです。

そのため、訴訟を起こす際には弁護士へ依頼した方が良い場合がほとんどです。弁護士に訴訟を依頼すれば、当事者の方はほとんど裁判所へ出廷する必要すらありません。訴訟を有利に進めやすくもなりますし、適切に和解のタイミングを図りやすいなどのメリットもあります。

 

群馬の山本総合法律事務所では、不倫の慰謝料請求案件に力を入れて取り組んでいます。これまで数多くの慰謝料請求裁判を経験し、解決してきた実績もございます。

不倫による慰謝料請求の案件には複数弁護士がチームを組んで、総合的なサポートを提供いたします。

 

不倫相手が慰謝料を払わないでお困りの方や訴訟を起こそうとご検討されている方は、まずは一度お気軽にご相談ください。