配偶者に不倫をされた場合、被害者には不倫の慰謝料を請求する権利が認められます。

しかし、権利が認められるからといって、どのような場合でも自由に行使できるとは限りません。場合によっては「権利の濫用」となり、慰謝料の請求が封じられるケースも存在します。

 

そもそも権利の濫用とはどのようなものなのか、どのようなケースで権利の濫用になるのか、正しい知識を持って対応しましょう。

 

今回は不倫の慰謝料の請求が「権利の濫用」になる場合について解説します。

これから慰謝料請求をしようとしている方、相手から「権利の濫用」といわれて困っている方はぜひ参考にしてみてください。

 

1.権利の濫用とは

六法全書

権利の濫用とは、形式的には権利が認められるものの、権利行使を認めると不当な結果となってしまうので、権利行使が認められない場合をいいます。

 

そもそも、民法上は権利者であれば自由に権利を行使できるのが原則です。

たとえば、相手にお金を貸している場合に取り立てを行うのは自由ですし、不倫をされたら不倫相手や配偶者に対して慰謝料を請求するのも自由です。請求のタイミングや請求方法についても、違法行為に及ばない限りは特に限定はされません。

 

しかし、権利の行使が制限される場合もあります。その制限の1つとして、権利の濫用が挙げられます。権利の濫用については民法1条3項に規定があります。

民法1条3項「権利の濫用は、これを許さない。」

 

「濫用」とは「みだりに用いること」という意味合いです。

 

 

2.不倫の慰謝料請求が権利の濫用になるケース

不倫の慰謝料請求は、基本的に自由にできるはずのものです。しかし、一定の場合には権利の濫用として認められない可能性があるので、どのようなケースが権利濫用に該当するのかについて、以下のとおりご説明します。

 

この点について、最高裁判所の判決が出ていますので参考になります(最高裁平成8年6月18日)。

 

2-1.権利の濫用が認められた最高裁判決

裁判所

この最高裁判決は、妻が夫の不倫相手へ慰謝料請求した事案です。

妻は不倫相手へ500万円の慰謝料を請求し、高等裁判所は100万円の慰謝料を認めていました。不倫相手側が納得せずに上告したところ、最高裁は、損害賠償請求権の行使は「権利の濫用」として許されないとして、原告(被上告人)の請求を棄却しました。

 

主な理由は以下の通りです。

  • そもそも、夫が不倫相手に結婚を申し込んだことから2人の交際が始まった
  • 不倫が始まった当初の時点において、原告は「夫と離婚するつもりである」などと愚痴を言っていた
  • 夫は不倫相手に対して暴力を振るっており、原告はその事情を利用して慰謝料を要求した(暴力を用いた脅迫的な慰謝料請求)

 

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不貞慰謝料請求が権利の濫用と認められた理由

この事案で裁判所が特に重視したのは、慰謝料請求を行った妻が夫による不倫相手に対する暴力を利用した点であると考えられています。不倫相手に対し、胸ぐらをつかんだり首を絞めたり腹部を殴ったりしたとも認定されています。つまり、慰謝料の支払いを強要するなど請求態様が極めて悪質なので、権利濫用とみなされたものと考えられます。

 

 

2-2.自分が不倫を引き起こしたケースで慰謝料請求が認められなかった事案

バツのカードを出す男性

不倫慰謝料の請求が権利濫用とみなされたケースをもう1つ、ご紹介します(東京地裁平成26年9月29日)。

このケースでは、夫が妻の不倫相手に対して慰謝料請求を行いました。

 

ただし、夫には借金があり、それまでにもたびたび女性問題や酒の飲み過ぎなどのトラブルを起こしていたため、妻が耐えられなくなって不貞行為に及んだという事情がありました。

このように「妻が不倫した原因の多くが原告自身にある」といえるので、裁判所は権利の濫用として請求を棄却したのです。

 

3.権利の濫用になるケースは少ない

以上のとおり、慰謝料の請求が権利の濫用とみなされるケースは実際に存在します。

暴力や脅迫を用いて慰謝料を請求したり、自分が不倫を引き起こしておきながら慰謝料請求したりすると権利の濫用とみなされる可能性があるといえるでしょう。

 

もっとも、権利の行使はあくまで自由であることが原則です。権利濫用と評価されるケースは例外であると考えたほうがよいでしょう。自分の慰謝料請求が権利濫用になるかどうかわからない場合には、弁護士にアドバイスを求めましょう。

 

4.慰謝料の減額事由になる可能性も高い

慰謝料請求 権利の濫用

暴力的や脅迫的な慰謝料請求を行った場合、あるいは自分にも不倫を引き起こした責任がある場合などには、権利濫用以外にも「慰謝料の減額事由になる」可能性が高くなります。

 

慰謝料の金額には一定の相場がありますが、請求者側に落ち度があると、慰謝料が減額されてしまう場合があります。たとえば以下のような場合、一般的な慰謝料の相場より低額になる可能性があります。

 

  • 相手に暴力を振るって慰謝料を払わせようとした
  • 相手を脅して慰謝料を払わせようとした
  • ネットで誹謗中傷するなど、嫌がらせをして慰謝料請求しようとした
  • 不倫が始まったとき、すでに夫婦仲が悪化していた
  • 借金トラブルやDV、モラハラなど、請求者側に夫婦関係を悪化させた原因があった

 

4-1.相手から慰謝料請求される可能性がある

相手から慰謝料請求

暴行や脅迫、名誉毀損的な嫌がらせ行為を行った場合には、これらの行為が「違法行為」となるので、相手から慰謝料を請求されてしまう可能性もあります。

慰謝料が減額されるだけではなく、反対にこちらが慰謝料を払わねばならない可能性もあるので、こういった違法な請求方法は避けるべきでしょう。

 

 

4-2.刑事罰を受ける可能性がある

暴力を振るうと暴行罪や傷害罪が成立します。暴行や脅迫によって慰謝料を取り立てようとする行為には恐喝罪が成立します。

ネット上での嫌がらせは名誉毀損罪や侮辱罪に該当します。

 

このように、過度な行為には犯罪が成立して刑事罰を受けるおそれがあるので、これらの違法行為は控えましょう。

 

まとめ

慰謝料請求が「権利の濫用」といわれたり、「慰謝料の減額事由」とされたりしないためには冷静に請求手続を進めなければなりません。そのためには弁護士に依頼する方法がもっとも確実です。

群馬の山本総合法律事務所では不倫トラブルの解決に力を入れて取り組んでいます。安全かつスムーズに高額な慰謝料を獲得するため、お困りの際にはお気軽にご相談ください。