「不倫相手と同棲しているのが発覚して、奥さんから不倫を解消するよう強く求められています。裁判所で差止請求をされて同棲を解消させられてしまうのでしょうか?」

 

こういったご相談を受けるケースがときどきあります。

ただ不倫関係や同棲などの状態を法的に無理やり差し止められる可能性はほとんどありません。多くのケースでは慰謝料の支払いが認められるだけです。

 

今回は交際の差止請求が認められる可能性がどの程度あるのか、男女問題に積極的に取り組んでいる群馬の弁護士が解説します。

 

 

1.交際の差止請求とは

交際の差止請求とは、交際をやめるよう求めることです。

裁判所で差止請求が認められたら、裁判所から交際をやめるよう命令が出ます。

 

ただし交際の差止請求が法的に認められる可能性はほとんどありません。

以下で差止請求の法的根拠や裁判例をもとに、交際の差止請求が認められる余地があるのかみていきましょう。

 

2.差止請求の法的根拠

不倫(不貞)は違法行為です。ただ不倫したからといって当然に差止請求が認められるわけではありません。民法では違法行為が行われても「損害賠償金」による金銭賠償が原則であり、行為の差し止めが認められるケースは少数だからです。

このように「損害賠償金による賠償」のことを「金銭賠償の原則」といいます。

 

2-1.金銭賠償の原則の例外

民法では金銭賠償が原則となりますが、その他の権利実現手段が絶対に認められないわけではありません。

たとえば名誉毀損を受けた場合の名誉回復措置として、民法723条は以下のように定めています。

 

民法723条

「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」

 

このように、名誉棄損の場合には金銭賠償の代わりに、あるいは金銭賠償に足して謝罪広告などの適切な請求ができる可能性があるのです。

 

また判例において人格権侵害や生活権侵害(公害など)のケースでは差止請求権が認められているケースがありますし、独占禁止法違反行為や不正競争防止法違反などの場合には法律によって差止請求が認められます。

 

このように、金銭賠償には例外があり、必ずしも差し止めが認められないとは限りません。

 

2-2,人格権にもとづく差止請求権とは

不倫されたときの差止請求権は、人格権にもとづく差止請求権です。

人格権にもとづく差止請求権は明文にはなっていませんが、解釈上認められる可能性があります。

たとえば出版物の差し止め請求が認められた事件において、人格権としての名誉権にもとづいて差止請求権の権利性が認められたものもあります。

 

不倫相手との交際をやめさせる方法についてはこちら

 

3.不倫トラブルにおける差止請求の裁判例

では不倫が人格権の侵害であるとして、差止請求が認められるのでしょうか?

以下で不倫の案件で人格権の侵害にもとづいて差止請求が行われた裁判例をご紹介します。

 

大阪地方裁判所平成11年3月31日判決は、以下の理由で原告の差止請求を棄却しました。

  • 差止めは、相手方の行動の事前かつ直接の禁止という強力な効果をもたらすものであるから、事後の金銭賠償によっては原告の保護として十分ではなく事前の直接抑制が必要といえる特別の事情が必要
  • 不倫相手と配偶者が同棲すると、原告と配偶者との平穏な婚姻生活が害されるという直接的かつ具体的な損害が生じる
  • ただし同棲によって侵害されるのはもっぱら原告の精神的な平穏であり、こういった精神的損害については、損害賠償によっててん補されるべきである
  • 差止請求まで認められるべき特別の事情はない

 

つまり不倫では金銭賠償が原則であり、差止請求が認められるには金銭賠償では権利を守ることができない特別の事情が必要です。本件ではそういった特別な事情がないので差止請求は認めない、という結論になっています。

 

ほとんどのケースで特別の事情は認められない

上記の裁判例をみると「特別の事情」があれば差止請求が認められる可能性がある、と判断されています。ただ上記の裁判例では配偶者と不倫相手が同棲していて同棲を解消させないと夫婦関係の平穏を取り戻せないとしながらも、特別の事情は認められませんでした。

特別の事情が認められるのは極めて特殊なケースに限られ、一般的な不倫のケースではほぼ認められないと考えるべきでしょう。

 

以上より、不倫した場合に不倫相手の配偶者から差止請求をされる可能性はほとんどないといえます。

 

4.配偶者から別れるよう請求された場合の対処方法

不倫が発覚して配偶者から不倫関係を解消するよう強く求められたら、どのように対応すれば良いのでしょうか?

 

4-1.別れる義務はない

まず、不倫が発覚しても不倫相手と別れる義務はありません。交際を継続していても刑罰を与えられるわけでもなければ差止命令も出ません。

その意味では交際を継続していても問題ないともいえます

4-2.別れない場合のリスク

ただし交際を継続すると、一定のリスクがあります。それは「慰謝料が上がってしまう可能性が高まること」です。

不倫慰謝料の金額は、以下のような場合に増額されるからです。

  • 不倫相手が反省していない
  • 同棲している
  • 被害者の受けた精神的苦痛が強い

反対に不倫相手がしっかり反省して真摯な態度で謝罪すれば、慰謝料は減額される可能性があります。

 

つまり不倫が発覚したときに交際を続けると、高額な慰謝料を払わねばならないリスクが発生するのです。

 

4-3.弁護士に相談する

それでは配偶者から別れるように迫られた場合、①高額な慰謝料を払っても別れないか②慰謝料を減額してもらうために別れるのか、どちらが良いのでしょうか?

それについてはご本人らの考えによります。ただ一般的には不倫関係をいったん清算し、夫婦が離婚した後できれいな状態で交際をやり直す方が良いでしょう。

 

不倫が発覚すると、配偶者からさまざまな請求をされる可能性があります。そんなときには状況に応じて適切な対応をとらねばなりません。

具体的にどういった対応が適しているかについては、経験を積んだ弁護士だからこそ正しく判断できるものです。不倫して相手配偶者から別れるように迫られて困った場合などには、弁護士に相談しましょう。

 

群馬の山本総合法律事務所では不倫慰謝料を請求された方へのサポートに積極的に取り組んでいます。解決実績も多数ありますので、お困りの際にはお気軽にご相談ください。