「性行為・肉体関係はなかった」という相談
目次
「性行為(男女の肉体関係)がないのに慰謝料請求されました。払う義務はありますか?」
といったご相談を受けるケースがあります。そんなとき、慰謝料を払わねばならないのでしょうか?
基本的に肉体関係がなければ慰謝料を払う必要はありません。
ただし一定のケースでは例外的に肉体関係がなくても慰謝料が発生する可能性があります。
この記事では性行為や肉体関係がないのに慰謝料請求された場合の対処方法を弁護士の視点からご説明します。
相手との男女関係がないのに慰謝料請求された方はぜひ参考にしてみてください。
不貞が成立するには肉体関係が必要
不倫の案件で慰謝料が発生するのは、基本的に「不貞」が行われたからです。
不貞とは、既婚者が配偶者以外の異性と肉体関係を持つことを意味します。
肉体関係がなかったら慰謝料は発生しないのが原則です。
男女が親しくやり取りしていても、相手との関係がプラトニックであれば基本的に慰謝料を払う必要はありません。
不貞の証拠となりうるもの
相手が不貞として慰謝料請求を行うには、不貞の証拠が必要です。
不貞の証拠になるのは一般的に以下のようなものとなります。
写真や動画
性交渉をしている際に撮影した写真や動画などの映像があると、直接肉体関係を示す証拠になります。
一方、外で手をつないでデートしているときの写真や動画などは肉体関係の証拠にはならないので、証明力は低くなります。
メール・LINE、SNSのやり取り
メールやLINE、SNSなどによるやり取りの内容も証拠になります。
直接的な不貞の証拠になるのは、一緒に旅行に行ったり不倫相手の家に泊まったり、あるいは性交渉に関する直接的な内容が書いてあったりするものです。
一方、「好き」「会いたい」「愛してる」といった内容だけでは直接的な肉体関係の証拠にはなりません。証明力は低めになります。
本人が書いた日記など
本人が書いた日記やスケジュール帳、メモなども証拠になる可能性があります。
たとえば日記に詳しく不貞の様子が書いてあれば直接的な証拠となるでしょう。
スケジュール帳にデートの予定が書いてあれば、直接肉体関係は証明できなくても間接的な証拠になります。
領収書・クレジットカードの明細書
デートの際に支払いをしたときの領収証やレシート、プレゼントを送った代金のクレジットカード明細書なども親しく交際している証拠になります。ただし肉体関係を直接証明できないので、証明力は低いといえます。
通話記録
夜中に長時間電話していることがわかる通話記録なども不倫の証拠となります。ただし肉体関係を直接は立証できないので、証明力は低めです。
第三者の証言
「たまたま2人がラブホテルに入るところを見た」などという第三者の証言があると、不貞行為の証拠になります。ただし第三者とはいっても慰謝料請求者の親戚など「慰謝料請求者に親しい立場」の人の証言であれば、信用力は低下します。
自認書
浮気した本人が書いた浮気の自認書も証拠になります。
性行為がなくても慰謝料が認められる可能性がある
不倫で慰謝料が認められるには、基本的に肉体関係がなければなりません。
しかしときには肉体関係がなくても慰謝料が認められるケースがあります。
具体的にどういった事例で肉体関係がなくても慰謝料が認められる可能性があるのか、みてみましょう。
性行為がなくても慰謝料が認められる可能性のあるケース
性行為がなくても一定のケースでは慰謝料が発生します。
夫婦には「平穏な夫婦生活を維持する権利」が認められるからです。
あまりに親しく男女が交際すると、たとえ肉体関係がなくても夫婦の平穏な生活が侵害されると考えられます。
そこで不法行為が成立して慰謝料が発生すると考えられているのです。
以下で性関係がなくても慰謝料が発生するケースの例をご紹介します。
夜間などに頻繁に密会していた
夜間などの非常識な時間に頻繁に密会していると、配偶者は不安を感じて夫婦関係は不穏になるでしょう。そこで不法行為が成立し、慰謝料が発生する可能性があります。
高額なプレゼントを贈り合う
2人が男女の情愛を持ち、誕生日やクリスマスなどのタイミングで高額なプレゼントを贈り合っていると、配偶者は不安を感じるものです。またプレゼント代が高額な場合、家計が圧迫される可能性もあります。
そういったケースでは肉体関係がなくても慰謝料が発生するケースがあります。
旅行する、親密な手紙を贈り合う
たとえ肉体関係がなくても、交際している2人が一緒に旅行すると、配偶者は平穏な気持ちではいられません。また恋愛感情を相手に伝えるような手紙のやり取りがあると、やはり配偶者は不穏な感情を抱くでしょう。社会通念を超えるやり取りであるとして慰謝料が認められる可能性があります。
ホテルを利用した
一緒にホテルに入ったけれども肉体関係を持たなかった事例では慰謝料が認められる可能性があります。
ホテルに入れば通常「肉体関係を持つだろう」と考えられるからです。
ホテルに入ったのに肉体関係を持たなかったことを証明するのは難しいので、軽率な行動をとらないよう注意しましょう。
メールやLINEで親密にやり取りしていた
肉体関係がなくても、メールやLINEなどであまりに親しくやり取りしていると慰謝料が発生する可能性があります。
メールやLINEを送り合っているだけではなくしょっちゅう会っていたりプレゼントを贈り合ったりしていると、より慰謝料が認められる可能性が高まります。
配偶者へ「別の異性と結婚する」と宣言した
不倫した本人が配偶者に対し「別の人と結婚するから別れてほしい」などと宣言して離婚を迫ると、肉体関係がなくても慰謝料が発生する可能性があります。
そのようなことを言われると、平穏な夫婦関係を維持するのは困難になるからです。
肉体関係がない場合の慰謝料の金額
肉体関係がない場合や証明できない場合の慰謝料の金額は、肉体関係がある場合より大幅に低くなります。
具体的には以下の程度の差額が出ます。
【肉体関係がある場合の慰謝料】
夫婦が離婚する場合に100~300万円程度。婚姻期間が長いほど慰謝料額が上がる傾向がある
【肉体関係がない場合の慰謝料】
50万円程度が相場になります。
不貞行為(肉体関係)がないが、慰謝料請求された際の対処法
もしも肉体関係がないのに慰謝料を請求されたら、どのように対処すれば良いのでしょうか?以下で対応手順をお知らせします。
証拠の提示を求め、慰謝料の支払いを拒否する
まずは相手による慰謝料の支払いをはっきり拒否しましょう。
不貞を証明するには、肉体関係の証拠が必要です。
実際に交際相手と肉体関係を持っていないなら、相手は肉体関係の証拠を持っていないはずです。
よって肉体関係の証拠を提示するよう求め、提示できなければ慰謝料は支払わないと主張するのが良いでしょう。
時効が成立していないか確認する
不倫(不貞)の慰謝料請求権には時効があります。
時効期間を過ぎると慰謝料請求はできません。慰謝料請求されたら時効が成立していないか、確認することが大切です。
不倫慰謝料の時効が成立する条件は以下の通りです。
- 配偶者が不倫の事実と不倫相手を知ってから3年が経過した
つまり請求者が「不倫された」ことを知り「不倫相手が誰か」わかったら、その時点から3年が経過した時点で慰謝料請求できなくなるのです。
不倫していた時期が3年以上前の場合、時効が成立している可能性があります。
時効を援用する
もしも時効が成立した場合には「援用」しなければなりません。援用とは、「時効による利益を受けます」という意思表示です。
時効成立に必要な期間が経過しても援用しなければ時効の効果を得られないので、放置しないように注意しましょう。
慰謝料を認めてはならない
せっかく時効が成立したり成立しそうになったりしていても、援用せずに慰謝料を認めると時効の援用はできなくなってしまいます。
明確に認めなくても一部を払うなど、認める行動をとるとやはり時効の援用ができなくなります。
時効が成立している可能性があるなら、慰謝料を認める行動をとってはなりません。
なお不倫から20年が経過した場合にも不倫慰謝料の請求権は消滅します。
示談書にサインしない
肉体関係がないのに慰謝料請求されたとき、相手から用意している示談書や念書などにサインを求められるケースがよくあります。
しかし安易に示談書や念書にサインしてはなりません。肉体関係がなくても慰謝料の支払いを約束する示談書にサインしてしまうと、慰謝料を払わなければならない状態になってしまうからです。
同様に、自認書にもサインしてはなりません。自認書とは、不貞行為を認める書面です。自認書にサインすると、それ自体が肉体関係の証拠にされてしまいます。
弁護士に相談する
相手が「配偶者が不倫している」と思いこんでいる場合、こちらがいくら「肉体関係がない」と說明しても聞く耳持たないケースが少なくありません。
「ごまかしている」などと思われて、余計に怒りを増幅させるケースもよくあります。
トラブルが大きくなるのを防ぐため、弁護士を入れるようおすすめします。
弁護士から「肉体関係がなければ不貞にならない」「本件では肉体関係がないので慰謝料支払義務は発生しない」と冷静に說明してもらえたら、相手も納得しやすくなるからです。
相手が証拠を持っていなければ、通常裁判は起こさずに慰謝料請求をとりやめるでしょう。
証拠なしに裁判を起こしても慰謝料請求は棄却されるので、相手の徒労に終わるだけです。
まとめ
肉体関係がなかったら、慰謝料請求をされても不倫慰謝料を払う必要はありません。
ただし社会常識を超えた親しい男女の交際をしていると、少額な慰謝料が認められる可能性があります。
肉体関係がないときに慰謝料請求をされたら、基本的に断って早めに弁護士に相談するのが得策といえるでしょう。自分たちで交渉するより弁護士を入れた方がスムーズに解決できるものです。
群馬の山本総合法律事務所では不倫慰謝料請求された方への支援に力を入れて取り組んでいます。性交渉していないのに慰謝料請求されてお困りの方は、トラブルがこじれる前にお早めにご相談ください。
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