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「夫が女性と不倫しているのでは?」
と思っても、実は夫が女性に対して「性行為を強要している」ケースがあります。性行為について合意がなかったら、相手には慰謝料を請求できません。ただし一定の場合には慰謝料が発生する可能性もあります。
また強姦すると、こちらが相手に慰謝料を払わねばなりません。
今回は性行為について合意がなかった場合の慰謝料について、弁護士が解説します。
夫が強姦罪で刑事事件になった場合や不倫相手から「性行為を強要された」と反論された場合などには参考にしてみてください。
なお本稿では「夫が女性に対して性行為を強要した事案」を念頭においていますが「妻が男性に対して性行為を強要した事案」でも同様に考えられます。レアケースかもしれませんが、そういった状況にある方は夫を妻に置き換えて読み進めてください。
1.性行為を強要すると慰謝料は発生しない
配偶者が不倫しているなら「不倫相手に慰謝料請求したい」と考える方が多いでしょう。しかし配偶者が性行為を相手に強要しているなら、慰謝料は請求できません。
合意がないのに無理やり性行為をされた場合、相手には故意も過失もないからです。
故意とは不貞行為時に配偶者がいることを知っていた場合であり、過失とは不貞行為時に配偶者がいることを不注意で認識できなかった場合をいいます。
配偶者に性行為をされた相手女性は被害者であり、性行為をされたことについて故意も過失もありません。
相手女性が「性行為を強要された」と主張している場合には、慰謝料請求できない可能性があり、慎重な対応が必要となります。
2.配偶者が相手方に性行為を強要した場合の典型例
- 夫が相手女性を脅したり暴行を振るったりして無理やり性行為をした(強姦)
- 夫が会社の部下の女性に対し、立場を利用して無理やり性行為をした(セクハラ)
3.性行為を強要した場合に成立する犯罪
夫が相手女性に対して暴行や脅迫をして反抗を抑圧した上で性行為を強要すると「強制性交等罪」が成立します(刑法177条)。
強制性交等罪は、以前「強姦罪」とよばれていた犯罪です。刑罰は「5年以上20年以下の有期懲役刑」となっており、極めて重い罪といえます。
なお現在、強制性交等罪は親告罪ではありません。被害者が刑事告訴しなくても加害者である夫が処罰される可能性もあります。
4.性行為を強要した場合の慰謝料支払い義務
夫が女性に暴行や脅迫をして無理やり性行為をした場合、夫は相手女性へ慰謝料を払わねばなりません。強制性交は重大な犯罪であり、相手が受ける精神的苦痛も大きいからです。
強制性交等罪の慰謝料相場
強制性交等罪は、人の性に関する意思決定権を侵害して人格権を踏みにじる極めて悪質な犯罪です。
被害者が受ける精神的苦痛も甚大なので、慰謝料額は高額になります。
相場としては100~500万円程度ですが、ときには1000万円近い金額で示談するケースもあります。
強制性交等罪の慰謝料が高額になりやすいケース
強制性交等罪が成立した場合の慰謝料額は、以下のような事情があると高額になりやすい傾向があります。
- 犯行が計画的で悪質
- 被害者に振るった暴行や脅迫が悪質
- 具体的な犯行態様が執拗
- 同じ相手に犯行が繰り返された
- 被害者の年齢が低い
- 被害者側に落ち度がない
配偶者が不倫相手に肉体関係を強要したときには、上記のような事情も考慮して慰謝料を算定すべきです。
ただ素人判断ではどういった事情をどこまで金額に反映させるべきかわからない方も多いでしょう。迷ったときにはすぐに示談するのではなく、弁護士へアドバイスを求めるようおすすめします。
5.性行為を断る余地があれば不倫慰謝料が発生する
以上が暴行脅迫によって無理やり性関係を持ったときの基本的な解釈ですが、ときには相手女性から「性行為を強要した」といわれても不倫が成立するケースが考えられます。
まず、相手に「性行為を断る余地があったかどうか」が問題になります。具体的には、強制性交等罪の「暴行・脅迫」は、相手の抵抗を著しく困難にする程度のものであると解されていることから、これに該当しない場合に問題になります。
上記の「暴行・脅迫」に該当せず、断ることができたのに相手があえて性関係をもった場合、強制性交等罪は成立しません。
場合によっては相手に故意や過失が認められて不倫慰謝料を請求できる可能性もあります。
また相手が「性行為を強要された」と主張していても、実際には配偶者が少し強めに性関係を誘っただけで、強要まではしていないケースも少なくありません。そういった状況であれば、慰謝料請求できると考えましょう。
6.当初は合意がなくても後に合意ができたら不倫になる
当初は夫が女性に対して性行為を半ば強要した場合でも、後に合意ができるケースがあります。
たとえば上司である夫が職場の部下の女性に好意を懐いて性行為を誘い、当初は女性が断ったので無理に性行為をしたけれども後に本当に交際関係に発展した場合などです。
このように、後に性行為について合意ができたらその時点では相手女性に故意や過失が認められ、慰謝料請求も可能となります。
7.相手から「強要された」と主張されたときの対処方法
不倫相手と思った相手女性から「性行為を強要された」といわれたら、まずは本当に夫が女性に対して性行為を強要したのか確認すべきです。
強制性交等罪が成立するなら、謝罪して慰謝料を払わねばなりません。
一方、相手女性が弁解しているだけならこちらから慰謝料を請求できる可能性があります。
正反対の対応が必要なので、状況を正確に理解することが極めて重要になるでしょう。
対応を誤ると数百万円以上の高額な慰謝料を払わねばならなくなったり夫に与えられる刑事罰が非常に重くなったりするリスクも発生します。
相手女性から「性行為を強要された」と主張されるケースは非常にデリケートなので、慎重な対応を要します。素人対応で不適切な対応をするとリスクが大きくなるので、対応は弁護士に任せましょう。
弁護士であれば正確に状況分析できて、法律の考え方を当てはめ依頼者が不利になりにくいように対応を進めることが可能です。相手との交渉も弁護士に任せる方がスムーズに進むものです。
群馬の山本総合法律事務所では不倫の慰謝料請求や刑事事件に力を入れて取り組んでいます。お困りの際にはお早めにご相談ください。