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不倫慰謝料を請求されたら、まずは相手と交渉して慰謝料の支払いの有無や金額を取り決めるものです。ただ、話し合っても合意できないと、相手から「裁判(訴訟)を起こす」といわれてしまう場合があります。
不倫慰謝料を請求されたとき、裁判外の交渉を続けるのと訴訟で決着をつけるのとどちらが良いのでしょうか?
今回は不倫慰謝料を請求されたときに裁判外の交渉で解決するメリットとデメリットをお伝えします。
1.不倫慰謝料トラブルを解決する方法には2種類がある
不倫慰謝料トラブルを解決する方法には大きくわけて、裁判外交渉と民事裁判の2種類があります。
1-1.裁判外交渉とは
裁判外交渉とは、いわゆる示談を意味します。当事者同士が話し合って慰謝料の金額や支払い方法を取り決めます。
話し合いなので柔軟に対応できますし迅速に解決できるケースも多い反面、相手と合意ができないと示談が成立しないなどの問題もあります。
1-2.民事裁判とは
民事裁判は、裁判所が原告と被告の言い分を聞いて一定の結論(判決)を出す手続きです。
訴訟や民事訴訟ともよばれます。
民事裁判は話し合いの手続きではありません。裁判所が判決によって慰謝料の支払義務の有無や金額を決定します。
有利な判決を獲得するには、法律的に正しい主張を行い証拠によって主張内容を証明する必要があります。
1-3.裁判外交渉と民事裁判の違い一覧表
裁判外の交渉と民事裁判の違いをまとめると以下の通りです。
|
裁判外の交渉(示談) |
民事裁判(訴訟) |
期間 |
短い |
長い |
煩雑さ |
簡単 |
煩雑 |
難しさ |
比較的簡単 |
難しい |
費用 |
安い |
高い |
支払う慰謝料の金額 |
交渉力によって変わる |
法的基準になる |
柔軟な対応 |
できる |
できない |
差し押さえの可能性 |
公正証書を作成しない限り差し押さえはされない |
滞納すると差し押さえをされる可能性がある |
2.裁判外交渉のメリット
不倫慰謝料トラブルを裁判外交渉で解決するメリットをみてみましょう。
2-1.早期解決を期待できる
裁判外交渉の場合、民事裁判よりも早期にトラブルを解決できるケースが多数です。
いったん民事裁判になってしまうと、裁判所で期日が開かれるたびに出頭して主張書面や証拠を提出しなければなりません。裁判の期日は月1回程度しか開かれませんし、終結するまで何度も期日が繰り返されます。早くても8か月程度、標準的には1年くらいかかってしまうでしょう。
裁判外交渉なら1~2か月で解決できるケースも珍しくありません。
トラブルは早く解決したい方が多いでしょうから、早期解決を見込めることは大きなメリットといえます。
2-2.労力がかかりにくい
裁判外交渉の場合、相手と話し合うだけなので労力がかかりにくいのもメリットです。
民事裁判を起こされると、法律的に正しい内容の書面を作成して証拠も集めて裁判所へ提出しなければなりません。終結前に尋問が行われるので、対応する必要もあります。一日仕事になりますし、プレッシャーも大きくなるでしょう。
素人の方が1人で対応するには荷が重すぎるほどに労力がかかる手続きです。
裁判外交渉なら、相手と話し合うだけなので手間がかかりません。そのため弁護士に依頼せずに自分で進める方も珍しくはありません。
2-3.費用が安い
裁判外交渉を進める際には、自分1人で相手と話し合うことも可能です。その場合、弁護士費用がかかりません。
解決にかかる費用を節約できることも裁判外交渉のメリットといえるでしょう。
ただし弁護士が介在すると、大きく慰謝料額を減額できて、弁護士費用以上のメリットを得られるケースが多々あります。弁護士費用の支払いは必ずしもデメリットにはならないので、1人で対応するのが厳しければ早めに弁護士に依頼しましょう。
2-4.分割方法を設定できる
不倫慰謝料を請求されても、お金がなくて一括払いできないケースがあるものです。
裁判外交渉であれば、相手さえ了解すれば分割払いをさせてもらえます。
民事裁判で判決が出る場合には必ず一括払いとなるので、裁判外交渉で分割払いの合意ができる可能性があるのは一定のメリットといえるでしょう。
2-5.減額してもらえるケースもある
民事裁判になると、裁判所が法的な基準に照らして適正な慰謝料の金額を算定し、支払い命令を下します。こちらに支払い能力がまったくなくても高額な支払い命令が出る可能性があります。
一方示談の場合、こちらに本当に支払い能力がないことを相手に伝えると、相場より大きく減額してもらえるケースが少なくありません。
法的基準より減額してもらえる可能性があることも裁判外交渉のメリットといえるでしょう。
2-6.秘密保持条項を入れるなど柔軟に対応できる
不倫トラブルは、できれば世間に知られたくない方が多いでしょう。
裁判外交渉であれば「お互いに不倫トラブルについて公表しない」とする秘密保持条項を入れられます。相手に不倫を広められるリスクを抑えられるのはメリットとなるでしょう。
民事裁判の場合には、慰謝料支払義務や支払額しか決まらないので、秘密保持の約束はできません。
秘密保持条項を始めとして、個別事情に応じた解決方法ができるのは裁判外交渉のメリットといえます。
2-7.差し押さえをされない
民事訴訟で判決が出ると、判決通りに支払いをしないときに給料や預金などを差し押さえられる可能性があります。給与差し押さえを受けると手取りの4分の1の額やそれ以上の金額が天引きされてしまうので、生活が苦しくなってしまうでしょう。
裁判外交渉であれば、公正証書を作成しない限り滞納しても差し押さえはされません。
もちろん滞納しないで払うのが一番ですが、万一のときに差し押さえを受けないことも裁判外交渉のメリットといえます。
3.裁判外交渉のデメリット
裁判外交渉には以下のようなデメリットもあります。
3-1.相手の手持ち証拠を確認できない
裁判外交渉の場合、相手がどのような証拠を持っているか、詳細を確認できません。相手に強制的に証拠開示させる方法がないためです。また相手としても証明の必要性が低いので、すべての証拠を開示するとは限りません。
相手の証拠を見ずに示談しなければならない場合、本当は相手が十分な証拠を持っていないのに慰謝料を払ってしまう可能性があります。裁判になれば証拠不足で相手が敗訴するケースでも、示談なら支払ってしまう可能性があるという意味です。
不倫の裁判で有効な証拠といえるには「肉体関係」を証明できるものでなければなりません。現実には肉体関係を証明できる証拠を集めるのは難しいので、不倫の疑いがあっても訴訟に踏み切れないケースが多いのです。それにもかかわらず示談で慰謝料を払ってしまうとこちらにとって不利益になります。
相手の手持ち証拠の確認ができないのは、裁判外交渉のデメリットといえるでしょう。
3-2.合意できないと解決できない
裁判外の交渉を行っても、相手と合意できるとは限りません。
合意できない場合には、裁判外交渉による解決は不可能です。相手が訴訟を起こし、民事裁判の手続きで解決することになるでしょう。
そうすると、裁判外交渉にかけた労力や時間が無駄になってしまいます。
合意できないと解決できない点も裁判外交渉のデメリットといえます。
3-3.高額な慰謝料を払わされる可能性がある
民事裁判の場合、裁判所が慰謝料の金額を決定するので法的に適正な金額になります。相場を上回る過大な金額の支払い命令が出ることはありません。
一方、示談の場合には当事者が自分たちで自由に慰謝料額を決定できます。相手が強硬な場合、相場より不相当に高額な慰謝料を請求してくるケースも少なくありません。こちらが妥協すると、法的相場を上回る慰謝料を払わされてしまいます。
不当に高額な慰謝料を払わされる可能性があるのは裁判外交渉のデメリットといえるでしょう。
3-4.違法行為や嫌がらせを牽制しにくい
民事裁判になると、通常はお互いに弁護士を立てるものです。また間に裁判所が入るので、相手もつきまといや脅迫、名誉毀損などの違法行為をしにくくなります。
一方、当事者同士で示談交渉する場合には、誰も相手の違法行為を止める人がいません。相手が暴行や脅迫に及んだり、自認書の作成を強要してきたり、ネットで不倫の事実を拡散したり無言電話をかけてきたりする嫌がらせを行う可能性があります。
違法行為や嫌がらせを止めにくいのも裁判外交渉のデメリットといえます。
4.裁判外交渉の進め方
不倫慰謝料問題を解決するために裁判外交渉で解決する流れは以下の通りです。
STEP1 慰謝料請求をされる
まずは相手から内容証明郵便などで慰謝料請求書が送られてきます。
STEP2 相手に連絡を入れる
請求書を受け取ったら、相手に連絡を入れましょう。
慰謝料の請求書には通常、慰謝料の入金期限や連絡の期限が書かれています。期限内に連絡しないと訴訟を起こされる可能性があるので、無視してはなりません。
STEP3 交渉を開始する
相手に連絡を入れたら、慰謝料の交渉を開始します。以下のような事項について取り決めましょう。
- 慰謝料を払うか払わないか
- 払う場合は慰謝料の金額
- 一括払いするか分割払いにするか
- 接触禁止条項を入れるかどうか
- 違約金の条項を設定するかどうか
- 秘密保持条項を入れるかどうか、その内容について
STEP4 合意書を作成する
話し合いによって合意ができたら、合意書を作成しましょう。合意書には当事者双方が署名押印し、2通作成してお互いが1通ずつ保有します。
STEP5 慰謝料を支払う
合意した通りに慰謝料を支払えばトラブルが解決されます。
STEP6 公正証書の作成を求められたときの対処方法
相手から公正証書の作成を求められたとき、応じる義務はありません。ただ「公正証書作成に応じないと訴訟を起こさざるを得ない」などといわれるケースもあります。
そんなときには、公正証書作成に協力する代わりに慰謝料を減額してもらうなどの提案をしてみましょう。それが無理でも、公正証書作成の費用については相手に負担を求めると良いでしょう。
不倫慰謝料を請求されると、検討しなければならない事項が多々あります。相手との交渉を弁護士に任せると有利かつスピーディに進められる可能性が高まります。
群馬の山本総合法律事務所では不倫慰謝料請求された方へのサポート体制を整えていますので、困ったときにはお気軽にご相談ください。